バイクレースのパドックは、何十年ものあいだ静かにストリートファッションへ影響を与えてきた。それなのに、たとえばミリタリーサープラスやワークウェアに向けられるような敬意をもって語られることは、ほとんどない。妙な話である。美意識の重なりは大きいし、作りの良さで上回ることも珍しくないからだ。
ビンテージ期の Suzuki のチームジャケットは、格好のケーススタディだ。リブの袖口、リブの裾、フロントジップ、スタンドカラー——このボンバーのシルエットは MA-1 フライトジャケットからの借用であり、それは筋が通っている。モータースポーツは技術の面でも視覚言語の面でも、つねに航空から引いてきた。レーシングチームのジャケットは、概念としてはフライトジャケットそのものだ。高速で機械を操る人間のためのアウターである。
その公式に Suzuki が足したのは、自社のレーシング・アイデンティティだった。ブルーとイエローの配色、様式化された S、GSX-R の連想——それらをボンバーの型に重ね、チームユニフォームであると同時にファッションピースでもあるものを作り上げた。ピットクルーが着た。メカニックが着た。そのうち、ただバイクをかっこいいと思っているだけの人たちも着るようになり、誰にも区別はつかなかった。ジャケットが同じものだったからだ。
これがパドックからストリートへの導線である。モータースポーツの現場のために設計されたギアが、見た目が良く、長く保つという理由で一般の文化へ移っていく。レーシングシューズでそれは起きたし(Puma、Sparco を見ればいい)、レーシンググローブでも起きた(これまでのあらゆるドライビンググローブがそうだ)。そしてチームジャケットでも、間違いなく起きた。
なかでも Suzuki のボンバーは、元の文脈を超えるものへと年を重ねた。ジーンズとブーツに合わせれば、ただ正しく見える。プロポーションはクラシックで、ブランディングは大胆だが押しつけがましくなく、作りが確かなので、崩れていくのではなく味が出る。この手のジャケットがビンテージショップで当時の何倍もの値札をつけて並ぶのには、理由があるのだ。
いま店に1点ある。ビンテージの Suzuki モーターサイクル・ボンバージャケット、すべてオリジナルのまま。見に来てほしい。



